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大阪高等裁判所 平成7年(行ス)7号 決定 1995年9月22日

抗告人(被告)

奈良市(Y)

右代表者市長

大川靖則

右代理人弁護士

辻中栄世

相手方(原告)

馬場克巳(X1)

井上信子(X2)

理由

二 当裁判所の判断

一件記録によれば、基本事件は、大和都市計画事業(奈良国際文化観光都市建設事業)・近鉄西大寺駅南土地区画整理事業における仮換地指定処分取消請求の訴えであり、原審は、相手方(原告)らが本件仮換地処分の照応の原則違背の事実等を証すべき事実としてなした、抗告人(被告)が所持する文書についての提出命令の申立てのうち、原決定主文第一項記載の文書(以下「本件文書」という。)についての申立てを認容したものである。

しかるところ、一件記録によれば、本件仮換地指定は、換地計画に基づき換地処分を行うために必要があることを理由として行われたもの(土地区画整理法九八条一項前段の後半)ではなく、土地の区画形質の変更にかかる工事のため必要があることを理由として行われたもの(同条一項前段の前半)であり、換地計画は未だ決定していないが、将来の換地処分を見越してなされたいわゆる換地予定地的仮換地指定であることが認められる。右のとおり、本件事業については未だ換地計画が定められていないことからすれば、本件文書は、抗告人が本件仮換地指定を行うにあたって事業計画に定められた街区に従前の土地に対応する仮換地の割込みをするために作成した資料であると認めるのが相当であり、土地区画整理法八六条、八七条に従い換地計画を定めるにあたって作成された同法施行規則一三条所定の書類であるとはいえない。従って、本件文書は、同法八四条一項にいう「換地計画に関する図書」に該当せず、相手方らにおいて同条二項に基づき閲覧を請求できるものでもない。

もっとも、本件のような態様の仮換地指定が行われた場合、土地区画整理法上は、事業施行者が当初の仮換地指定当時の換地計画案と異なる換地計画を作成決定することは可能であり、当初の換地計画案と最終的な換地計画とが異なる場合もあり得るが、いずれにせよ、最終的には換地処分に至る前に換地計画が定められ、換地計画が定められた際、同法所定の手続によって関係権利者の利益保護が図られることになり、その時点で、関係権利者は、事業施行者に対し、同法八四条二項に基づき同条一項所定の簿書(換地計画に関する図書等)の閲覧を請求することができることになることはいうまでもない。

そうだとすれば、現時点で、相手方らが抗告人に対して、同法八四条二項に基づき本件文書の閲覧を請求できないとしても、直ちに同法八四条一、二項の趣旨が全く没却されるとまではいえない。

以上のとおりとすると、右閲覧請求権のあることを前提とする本件文書についての提出命令の申立ては理由がない(なお、本件文書については、相手方らが、他に何らかの引渡又は閲覧請求権を有することを認めるべき資料もない)から、右申立てを認容した原決定主文第一項を取り消し、本決定主文第二項のとおりこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 長井浩一)

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